【妊娠中の歯科治療】妊娠中の口腔内の症状と対応まとめ

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妊娠中の患者さんは歯科医院に通うことを不安に思われている方が多いと思います。

妊娠中はお口の中の状態も変化しますし、積極的な治療もできない場合があります。

しかし、出産後は自由な時間がなくなったりと、妊娠中より歯科医院に通うことが難しくなります。

いつ治療を始めたらいいのか、また気をつける点は何か?まとめました!

治療の時期

治療の時期はいつからが良いか?
結論から言うと、つわりが落ち着き、体調の良い方が多い安定期に入ってからです!

妊娠時期を分類すると

• 16週未満(1~4ヶ月):妊娠初期

• 16~27週(5~7ヶ月):妊娠中期(一般的に安定期と呼ばれる時期です)

• 28週以降(8ヶ月以降):妊娠後期

一般的に体調が良い安定期が治療に適している時期ですが、初期や後期も治療ができないわけではありません。

しかし、16週未満の妊娠初期は胎盤が完成しておらず、麻酔や投薬は控えた方が良い時期です。

妊娠後期では母体に負担がかかり、長時間の仰向けの姿勢が苦しく治療が困難な場合があります。
これを「仰臥位低血圧症候群」と言います。

仰向けになった際、子宮が下大静脈という人体で最も大きな血管を圧迫すると、心臓への静脈血の環流量が減少します。
その結果、心拍出量が減少し低血圧になります。

頻脈、悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白などの症状を起こします。

お腹の大きくなった妊娠後期に起こりやすいです。

仰臥位低血圧症候群が起こった際の対策は、仰向けから左を下にして横向きに寝かせ、下大静脈への圧迫を緩めると、症状は速やかに回復します。

 左側を下にして、右足を曲げるシムス位は妊婦さんがリラックスできる体勢です。

少し背もたれを起こした体勢にすると、仰臥位低血圧症候群の予防になったり、仰向けが苦しい方も少し起こすだけで楽になるかもしれませんので、身体に負担のない体勢で治療を受けていただけるよう施術者は配慮します。

妊娠中の治療の注意点

妊娠中は麻酔が使えるのか?レントゲンは?薬は飲んでもいいのか?が気になると思います。

妊娠中の麻酔について

一般的に妊娠中の歯科治療での局所麻酔は使用量が少量のため、問題ないとされていますが、麻酔薬の添付文書には妊娠中の投与に関する安全性は確立しておらず、治療上の有益性が危険性を上回る場合に投与すると記載されています。

妊娠4か月までは胎児の奇形の心配がある時期ですので、局所麻酔の使用は慎重に行う必要があります。

また、血管収縮薬としてシタネスト-オクタプレシン®︎に添加されているフェリプレシンは、軽度の子宮収縮作用と分娩促進作用があるため、妊娠8ヶ月以降の後期には使用を避けたほうがよいとされています。

妊娠中のレントゲン

歯科のX線撮影の際の放射線量は極めて少ないです。

防護エプロンで腹部を遮蔽しての撮影で、胎児や母体に与える影響はほとんどないと考えられています。

妊娠中の投薬

麻酔薬と同様に添付文書には治療上の有益性が危険性を上回る場合に投与と記載されています。

抗菌薬の場合はセフェム系やペニシリン系であれば胎児に対する影響が比較的安全とされており、鎮痛薬はカロナールなどのアセトアミノフェンが比較的安全とされています。

妊娠性歯肉炎

妊娠中、歯ぐきが腫れたり出血がある場合は妊娠性歯肉炎の可能性があります。

妊娠性歯肉炎とは妊娠中のホルモンバランスの変化によって生じる歯肉炎のことです。

症状は通常の歯肉炎と同じで、発赤、腫脹、出血などです。

妊娠性歯肉炎の原因

この妊娠時に起こる歯肉炎の原因はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンです。

エストロゲンはPrevotella intermediaの増殖を促進し、また、プロゲステロンが炎症物質であるプロスタグランジンを刺激することにより炎症が起こりやすくなります。

妊娠後期になると女性ホルモンの分泌が増えるので妊娠中期から後期にかけて妊娠性歯肉炎が発症しやすいです。

妊娠性歯肉炎と早産や低体重時出産

妊娠性歯肉炎から進行した歯周病になると、早産につながる可能性があるといわれています。また、胎児の成長にも影響を及ぼし、2500g未満の低体重児出産になりやすいです。

そのリスクは7倍以上にものぼるといわれ、年齢や喫煙、アルコールなどの他のリスク因子と比べて危険率が高いです。

歯周病と胎児とのリスクについては、知らない方も多いと思いますので、特にペリオのリスクの高い方には、しっかりとお伝えする必要があります。

妊娠性エプーリス

妊娠性歯肉炎と比べると、発症はかなり低いですが、妊娠期にみられる歯ぐきの症状に妊娠性エプーリスがあります。

口腔内の粘膜に生じる限局的な良性の腫瘍で主に上顎前歯に現れることが多く、妊娠による女性ホルモンの増加によって歯肉のコラーゲンが増殖したものと考えられています。

出産後に自然に消失することが多いため、妊娠中は基本的に処置を行わず、経過観察をしますが、歯ブラシがあてにくく、プラークが溜まりやすいので注意が必要です。

つわりによる口腔内のリスク

つわりとは妊娠5週頃から始まり、12〜16週、安定期頃まで続くと言われていますが、つわりの期間や症状には個人差があります。

妊婦の約80%にみられる症状で吐き気や嘔吐、食欲不振、においが気になる、眠気やだるさなどの症状があります。

吐きづわりの場合

歯ブラシを入れるだけで気持ち悪くなり、歯磨きが困難になり、清掃不足でペリオのリスクが高まります。
嘔吐により、口腔内が酸性になりやすく酸蝕症の原因になります。

1回の食事でたくさん食べることができず、調子の良い時に食べることで、食事の回数が増え、カリエスリスクが高まります。

食べづわりの場合

何かを口にしていないと気持ち悪くなる症状で、間食が増え、カリエスリスクが高まります。

妊娠中の口腔衛生指導

ホルモンバランスやつわりの影響でいつものように歯磨きできない妊娠中。

どのような口腔衛生指導が必要でしょうか?

妊娠性歯肉炎への対応

ホルモンバランスの影響で歯肉炎を起こしやすい状況になっていますが、通常の歯肉炎と同じく、1番の原因はプラークコントロールです。つわりの影響で人によっては歯磨きが困難な事も多いですが、やっぱり歯肉の炎症には歯磨きに勝るものはありません。

早産や低体重児出産など、お腹のお子さんへのリスクもあることを伝え、妊娠性歯肉炎、歯周病のリスクの高い方には、セルフケアを頑張っていただくのが、最も効果があります。

つわりがある時の口腔衛生指導

カリエスリスクが高い方は間食の摂り方の指導が重要です。食べたあとや、吐いた後はこまめにうがいをしていただくだけでも効果があります。

何か口に入れたい時はキシリトールガムを口に入れるのも良いと思います。

ペリオリスクが高い方はセルフケアの指導が重要です。

食後に限らず、体調の良い時に歯磨きを行ってもらったり、セルフケア方法の変更をしていただきます。ヘッドの小さい歯ブラシへの変更や歯磨剤の使用を控えるなど、ブラッシングしやすい方法に変えてもらうのが良いと思います。

妊娠中の嗜好品の変化

妊娠中は酸っぱいものや甘いものを食べたくなったり、炭酸飲料を好む傾向があるようです。またアルコールやカフェインを制限されているので、別のものを代用していたりと、嗜好品が変わる可能性があるので、食生活習慣の変化により、カリエスリスクが高まることもあるので、しっかり問診しましょう。

まとめ

妊娠中は歯科医院に通うことが不安かもしれませんが、強い痛みが続くと、母体に悪影響を及ぼします。妊娠4ヶ月までの初期は奇形などのリスクがあるので、安定期からの治療が望ましいですが、歯周病の治療やクリーニングは初期から行っても問題ありません。

妊娠中だけでなく、出産後もなかなか手が離せず歯科医院に通うことが難しくなります。

虫歯菌の母子感染は歯が生えてくる6ヶ月から始まります。お子さんのお口の健康のためにも、妊娠中にお口の状態を整えておきましょう!

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